airiphys’s memorandum

@airi_physics の覚書

国科温州研究院を勧めるか?1.研究所のポスドクの一般的な情報

国科温州研究院(Wenzhou Institute, University of Chinese Academy of Sciences. 略称WIUCAS. 国科=中国科学院大学)という新しい研究所でポスドクをして1年たった.当研究所のポスドクとしての狭い体験だが,今後検討する人のために書き記す.中国のポスドクに共通する部分も多いと思うが,全体を語るほどは知らないので個人の感想.良いところも悪いところもあると思うが,判断は任せてただ箇条書きしていく.第一弾として,研究所としてのポスドクとしての一般的な情報から.

  • ポスドクは皆,ポスドクステーションというのに入る.(多分中国のポスドク共通)
  • ポスドクステーションで,ボスの裁量ではなく制度としてある義務(形式的):
    • 入って1,2ヶ月でのこれからやることの報告(开题)簡単な提出物と4分くらいの発表.
    • 中間報告(資料提出のみ,大学RA程度の報告書)
    • ポスドクを終えるときの報告(出站)博士論文みたいに書いて製本するらしい.だが英語で書いたら誰も読まない,と友人は言われたらしい.(形式的なもの)発表も短い時間ある.
  • 北京の中国科学院大学から給料の大部分(=ベース給与,と呼ぶことにする)をもらう,当研究所からは少しもらう(ボスの裁量で変えられる部分,グループによってかなり違うとの噂)
    • このせいで,温州市に納税していないせいで通常の人材認定制度が使えない.(現実的には無料のコーヒーがもらえる権利がなくなるなど)
  • 共同実験設備にテクニシャンがそれなりにいる(マスターもドクターも両方いる)
    • ただし英語が堪能な人は少なく,中国語で講習をやる.自分は一回それで無駄な時間を過ごしたので,以後ボスに言って自分のグループだけの訳してくれるメンバーと一緒に行ってプライベートレッスンにしてもらっている.
  • ポスドクはスタッフではないが,ポスドク相当でなれるスタッフの「助理研究員」という立場がある.それは基本三年更新のほぼテニュア.ただし,ポスドクより給料は低い.(その上の副研究員も,当研究所ではポスドクより給与のベースが低いが,上乗せはボス次第なので人によりけり)共用設備のテクニシャンも助理研究員の場合が多い?
  • 温州のポスドクの給料は良いと聞く.とくに,talent apartmentに住むことで家賃が激安になるので,使えるお金が多くなる.
  • 研究所の実験廃液,実験ゴミの分類は初めはされていなかった.今も廃液は分別されていない.徐々に変わってきている.
  • ボスの力が強い.グループによってかなり違うが.独自で実験室に打刻システムをつけたり,土曜日にMTGをしたり,"996"(9時から21時まで週6日)を課したり,監視カメラをつけるようなグループもあるらしい.自由にやれるところもある(私はそう).かなりボスによりけりだが,長く実験室にいることが全て,みたいな思想のボスだとつらいかもしれない(中国にはそれなりにいるらしい).要確認.
  • どこでもそうだが,どれぐらい忙しい人かも要確認.マネジメントに徹していて研究のディスカッションをする時間がほとんど持てない(持たない?)PIもいる.
  • グループを超えた交流が多いし,ポスドクや他の研究員,学生,PI同士も普段から非常に良くコミュニケーションをとっている.
    • 自分の所属している自発的な組織ポスドクの会についてはまた今度書く.
    • PI同士も昼ごはんを一緒に食べたり,昼食後散歩をしたりコーヒーのんだり,仲がいい.
  • 研究所全体のグループチャットがあり,気軽に「ある実験物品・化学物質が足りないので貸してください」とか「誰か〜のやり方について詳しい人いないか?」なども聞ける.
  • IFなどに応じた論文報奨金有り.(グループごとに額が違うはず,中国ではあるあるらしい)

     

  • ポスドクもA級に昇級する試験を申請することができる.IFが10以上(or 分野最高の雑誌 PRLはok)の筆頭著者論文が二つ以上,または国とか省の良いグラントをもってるとかだったはず.ベース給与が上がるらしい.
  • 一年たつと給与が上がる(ボスからの部分).または,上がるように交渉できる.(中国では普通らしい.)自分も月6万くらいも上げていただいた.助かる.
  • 外国人ポスドク社会保険に入れず病院は実費で.(ただし,日本と同じくらいの出費かも?)
  • 研究所としては打刻システム(一般的なアプリであるDing Talkを使用)があり,厳密ではないが,一応checkin: 8:30, check out: 17:30となっている.(GPSで打刻可能).打刻しないと怒られる人も怒られない人もいると思うが,一応しておくことは自分の身を守ること.
  • 実験の物の購入や業者とのやり取りは中国語なので無理.それをやってくれる人がラボにいるかは大事.自分のラボはマスター卒の優秀なメンバーがおり,いつもその人に言って買ってもらっている.
  • talent apartmentというところに格安で住めるが,ほぼ社宅状態.研究所の人がいっぱい住んでいる.
    • また今度詳細は書く予定.
  • 多くの面で英語化されていないという言語問題は大きい(また今度詳細を書く).外国人が少ない.ただ,日本人にとっては日本人PIが複数いるのが圧倒的に安心感はあるはず.
  • 中国全体の決まりとして,国内で一年働かないと有給休暇がない.しかも十年まではたった5日.(国の祝日も日本よりは少ないかも)
  • ポスドクの任期は二年.制度的には延長max1年らしい.ボスとの相談による.
  • ゼロコロナの状況によって,圧倒的に一時帰国がしにくい.オンサイト国際会議にいけない.国内会議もかなりの数延期や中止に追い込まれている.

中国アカデミア全体のことかもしれないこと:

  • グラントを取ることはめっちゃ大事(ポスドクでも)
    • 国省市などのレベルがあり,国レベルのグラントはIFの高い論文1つ換算程度
    • ただし,多くが中国語で書かれていて外国人にはハードルが高い
    • 外国人用のグラントもある.
  • インパクトファクター至上主義.とりあえずIF高いジャーナルに.
  • 論文出版主義.出版が全て.
  • 論文も,人も,研究所自体も,独自のランク付けシステムがある
  • 「SCI論文」という論文の括りがあり,分野ごとに1区,2区,3区,4区などとランク付けされている

次回は研究所での生活編の予定!